第2章 落としたストラップ
『あの……あの…!!!ええっと…』
背後から聞こえた男性の深い声
その声は私を引き止め、何かを話そうとした
私は大袈裟なほどに驚く
聞いたことのない声だったから、振り向くのにも勇気が必要だった
振り向いた先に立っていたのはバーテンさん
端正な顔立ちに、それを引き立てるような金色の髪
そのバーテン服は彼の背の高さにとても合っていた
爽やかな人…
外見の特徴一つ一つが彼に合っているような…
この人を知らない私でもそんな気がした
見惚れてしまう
が、
ふと我に返る
彼が手のひらに乗せているものに見覚えがあったから
そして私はこの場で初めて声を発する
「それ、私のだ…!」
肩から下げていたトートを見ると、つけていたはずのストラップがなかった
「拾っていただいたんですね!」
私は微笑む
本当に気に入って買ったものだったから、嬉しくて。
そして彼に近づこうと足を踏み出す
彼はなぜだか、目を見開いて顔を赤くする
「ありがt…
衝撃が走った
俯いた彼は、手のひらに乗せたストラップを…
《グギギッ…》
漫画に出てくる効果音のような音がした
私の顔は彼と対照的に、青ざめた
先程まで【爽やかな人】という印象だったのが一気に
【怖い人】に変わる…
「……え?」
彼は顔を上げる。
そして握りしめた手を開く
お見事…というべきだろう
金属部分が綺麗に破壊されているではないか
その後、会話を交わすこともなく彼はストラップを持って走って去っていった
私はしばらく、何が何だか分からずその場に立ち尽くした
なんだろうかこの不思議な気持ちは
バーテン服の男に対して抱いた格好良いという気持ち
ストラップを破壊された時の、怖いという気持ち
走って去る彼の後ろ姿を見た時の、なんとも言えない虚無感
なんだか…一目惚れに似たような…
なんだかこちらが『ごめんなさい』と言わなければいけないような…
その日は1日中、彼のことで頭がいっぱいになった