第6章 ありえませんよ
「まあ…何というか、負けなければ自分が損する勝負なんかは意図的に負けてたとは思いますけどね。それ以前にそんな勝負を征十郎が受けるわけありませんけど」
そう言えば中学時代に、あっくんと真ちゃんを仲直りさせるための3on3はわざと負けるようにはしてたわね。
結局、途中で何故か大ちゃんと黄瀬の喧嘩が始まって、その勝負も最後までやらなかったし。
「征十郎が負けてはならない勝負に負けるなんて絶対にありえませんよ」
私は三人に微笑みかけながら言った。
そう、彼が負けることなんてありえない。
彼にとって勝利とは、基礎代謝と一緒。
生きていくうえであって当然のことなんだもの。
「それにしても、私も征十郎のにらめっこ見たかったですね…」
「ブホッ…藍川、もう止めろ…」
私が「にらめっこ」という言葉を発するたびに、永ちゃんは吹き出してはそれを堪えようと必死になる。
「永吉ってば、いつまでも引きずってんのよ」
「でも赤司の変顔面白かったよ?」
「お前たち、もう練習を始めるぞ」
「赤司…ブフッ」
「…全く、困った奴だ」
体育館の端でいつまでも話し続ける私たちに痺れを切らした征十郎が、この目の前の三人を呼ぶべく現れた。
永ちゃんは、征十郎の姿を見ただけで笑い出す始末。