第6章 ありえませんよ
うーん…何かいいアイディアはないかしら…。
…あ。
「そうだわ。この際隠すことは止めない?」
「何を言ってるんだ。話が違うだろう」
私の提案に、征十郎は眉を顰めて訝しげに私を見た。
「そうじゃないわよ。黛さんを普通の選手に見せるのよ」
私が考えた案はこうだ。
テツ君という前例がある以上、変に隠しては怪しまれるだけであり、そんな怪しげな情報をさっちゃんが逃すわけはない。
ならばそれを逆手にとって、黛さんを一般の選手として見せることで、周囲の警戒を解こうではないか。
それに洛山には五将の三人と征十郎がいる。
まず間違いなく、偵察組はこの四人をマークするだろう。
洛山のスタメンはこの四人と、その時々で変わる平凡な選手、としておくことで、黛さんがマークされることはなくなるわけ。
「どう?いいアイディアじゃないかしら?」
私が考えたこの案を伝えれば、征十郎は先程とは打って変わって嬉しそうな表情を見せる。
「面白い」
私の案に満足した征十郎は、もう十分に確認したのか、データファイルを持って席を立つ。
「細かいことは華澄に任せるよ」
「人使いが粗いわね」
「人聞きの悪いことを言うな、お前の仕事だ。それと、今度の資格試験は落ちるなんてヘマはしないように」
「一々口うるさいわね。私が落ちるわけないでしょう」
「ならばいい」
そう言うと、征十郎はノートを部室へ返すべく、教室を出て行った。