第5章 尽くすだけ
それを少々嫌そうな顔ではあるが口へ運び、私は感想を待つ。
「…いいんじゃないか?」
「本当ですか?」
黛さんが素直に「美味しい」なんて言うなど、端から思っていない。
彼の言う「いいんじゃないか」という感想は、私の中では「美味しい」に変換される。
「ああ。だが、上に乗せてるレモンが少し苦い」
「ふーん…どれどれ?」
この時、私は初めて自分の作ったこのケーキの味見をした。
横にいる黛さんとチラッとだけ見れば、「お前は食っていなかったのか」「これじゃ本当に毒見じゃねーか」とでも言いたげな顔をしていたが、気にしない。
「…本当だわ。また作り直しね」
「用はそれだけか」
「いいえ。もう一つあります」
毒見まがいなことをさせられ、機嫌が悪くなった黛さんは、私を早くこの場から追い出そうと急かす。