第18章 おかえりなさい
ベンチに戻ってきてからも、不穏な空気は変わらず、監督でも今起こっていることが信じられない様子で征十郎を見ていた。
「…征十郎……」
私は征十郎の前に屈みこみ、そっと彼の膝に手を置いた。
「(こんな征十郎は初めて見るわ…とても心配……だけど)」
征十郎の膝の上の手をグッと握りしめ、下を俯いた。
「(本当はこのまま負けた方がいいんじゃないかって思ってる…そうすればきっと…!)」
あの頃の征十郎に戻ってくれる。
だけど…私は、ずっとこんな結果が欲しかったの?
征十郎が苦しんでいるのをただ黙って見てるだけの、この状況を望んでいたの…?
監督は少し考えるようにして口を開き始めた。
「……。…選手交代だ、赤…」
「…ちょっと待ってください」
監督が征十郎に選手交代を言い渡そうとした時。
黛さんが立ち上がり、監督の言葉を止める。
そして、征十郎の方を向き直った。
「無様だな」
…え?
「慰めたり励ましたりするとでも思ったか?しねぇよ、そんなこと。俺は聖人じゃねぇし。ただ気に入らなかったから文句言いたかっただけだ。あんだけ偉そうなこと言っといて、お前こんなもんか。俺にはそうは思えないんだけどな。屋上で初めて会った時とは別人だ。…つーか、誰だお前」
…誰だお前。
――― 僕は誰だ。