第3章 似てるの
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「黛さーん」
あの日から私は時々、北棟の屋上へ足を運ぶようになった。
「…また来たのか、藍川」
「また来てもいいと言ったのはあなたでしょう?」
特に用があるわけではないが、この窮屈な京都での生活の中で唯一、素でいられる空間としてここを選んだ。
別に黛さんに拘っているわけではない。
黛さんもそれをわかっているのか、何も言わずにいつも黙々と本を読み続ける。
「昨日やっと見つけましたよ?黛さんのデータ。私のデータの中でも影が薄いってどういうことなんですか」
「俺が知ったことか」
「そう言うと思いました」
黛さんの名前を知ってから、部室に仕舞ったデータファイルを必死に探したがなかなか見つからず、騙されたのではないか、とも思ったが、諦めずに探して漸く昨日発見。
「それなりに上手かったんですね、二軍だったけど」
「うるせーな」
彼は私が話しかけると、返してはくれる。
だが、その間も視線は本に向けられたままだし、彼から話し出すことは絶対にない。