第17章 もうやめて
「…え?」
きっと黛さんも抜いてはいけない、とわかってたんだと思う。
だけど、できなかった。
大きく隙を作ったテツ君に、咄嗟の本能が働いてしまったのだ。
「うおーダンク!!けど、いつ木吉がボール持ったんだ!?」
「気づいたらパスが通ってたぞ!?」
「っ…とにかく、ついに10点台の19点差!!誠凛這い上がってきたぁー!!」
そして、今の瞬間で上書きは完成してしまい、テツ君の特性は戻った。
『洛山、T・Oです』
緊急の事態に監督は思わずT・Oをとった。
私は慌てて立ち上がり、ドリンクとタオルを順に配っていった。
「ったく、勘弁してくれよオイー。誰かさんのせいで誠凛、またなんか息吹返したじゃねーか」
「きゃっ」
私がドリンクを永ちゃんに渡すと、機嫌の悪い永ちゃんはそれをフロアに投げつけた。
「ちょっと、アンタ華澄ちゃんに当たってんじゃないわよ。それと、イス三つも使わないでよ…けど、まあ」
永ちゃんを諌めながらも、レオ姉は私から受け取ったドリンクを喉に通した。
「残念だけど言う通りね。向こうの罠に気づかず嵌るだけならまだしも、反射的とは言え、わかっていながら嵌るのは間抜けとしか言えないわ」
「上書きで特性は完全に持ってかれたからパスは使えない。一対一なら勝てるけど、それなら控え選手で事足りる、交代っしょ」
「レオ姉にコタちゃんまで…」
どうにか二人を宥めるが、私も黛さんを弁護することはできない。
黛さんも反論すらせずに、交代を言い渡されるのをただ待っていた。