第16章 奇跡は起きない
洛山にとってはまずい状況。
開始三分で点差は9点…追いかけているのは洛山だ。
「監督…一度T・Oを取った方が…」
「…必要ない。多少予想外ではあったが、うちの4番をうろたえさせるほどのことではあるまい」
焦るコーチに監督は冷静に返した。
その言葉に私はコート上に立つうちの4番…征十郎に目を向ける。
「くそっ…火神…ゾーンに入った時は緑間以上じゃねぇか…!?」
「手が付けられないわね…!」
「OFはこのままでいく。DFは小太郎…マーク交代だ。真太郎以上だとすれば、やはりこうするしかないだろうね」
その征十郎の表情は冷たく、彼の視線の先にいるのが私ではないとわかってはいるが、私の背筋は凍り付くような感覚を覚えた。
「彼は、僕が相手しよう」
洛山からの攻撃はそのままレオ姉は3Pを決めた。
そして、攻守が変わった瞬間にコート内もギャラリーもざわつき始める。
向かい合った征十郎と火神…両チームの絶対的エースの衝突だ。
ボールは伊月さんから火神にまわり、その瞬間、火神は動いた。
だが、征十郎には『天帝の眼』がある。
止めよう、とボールに触れようとした征十郎…だったはずが、火神は征十郎をアッサリ抜き去った。
「赤司が抜かれた…!?」
「いいえ、違います」
私の隣に座るコーチの焦りは、その声音からも伝わってくる。
対照的に私には何の動揺もなかった。