第14章 できないわ
『選手交代です』
残り4分。
黄瀬はコートへ戻った。
「もう…あの馬鹿は…もって三分だって言ったじゃない…」
そう言いながらも、私の表情は柔らかなものになる。
黄瀬なら…絶対に無茶をしてでもそうすると思っていたから。
黄瀬と同時に誠凛ではテツ君がコートへ戻ってきていた。
「どちらが勝っても…きっといい勝負になるんでしょうね…」
試合を眺めながら小さく呟いた。
黄瀬は早速『完全無欠の模倣』をする。
怪我は私のテーピングで補強し、精神面も強くある今の黄瀬なら…残り四分間持たせることは可能かもしれない。
だが、それは選手生命にかかわること。
「全く…ケアを考えるこっちの身にもなって欲しいもんだわ…」
黄瀬のあまりの猛攻撃に誠凛のベンチは騒めきだす。
流石に監督のリコさんは、黄瀬の足首に関しては気づいているだろう。
私はフッと笑い、こちらに目を向ける彼女に笑いかけた。
「うちも鉄平が世話になったから文句は言えないけど…あの小娘、やってくれたわね」
「本気の黄瀬を倒せなくて、征十郎を討てるとでも思ったの?お・ば・さ・ん」
誠凛が勝つには黄瀬を止めるしかない。
だが、今の黄瀬は誰にも止められない。
「(だとしても…そんなことで諦めるたまではないでしょう?あなたは)」
ねぇ、テツ君…。
現にあなたの目はまだ諦めていない。
もし…黄瀬を止める、としたら。
「黄瀬が、誰の模倣をするのかを予想する…若しくは誘導する、それしかないわよ?」
テツ君も同じ考えだったのか、彼の目は黄瀬の動きを観察するように追うようになっていた。