第13章 歯痒い…
征十郎は、固まった私の手から携帯を奪い取り、その画面をまじまじと見る。
「先程から隠れて何かやっていることには気づいていたが…。言ったはずだ、次はない、と」
「なっ…」
そう言うと、征十郎は会場外の大きな壁を通り越して、私の携帯を投げ捨てた。
「なんてことをするのよ!まだ黄瀬には今日のケアしか教えていないの。怪我の具合によっては、明日のテーピングも変えなくちゃいけないわ…。それに私は直接手を下してはいない…約束は守っているはずよ?!」
「僕に逆らうのか」
私に振り返った征十郎の目は恐ろしいほどに冷たかった。
有無言わさない、逆らうことのできない、彼の瞳が私を捉えた。
「僕の命令は絶対だ。逆らうなど、いくら華澄でも許さない」
「……」
私は唇を強く噛み、冷え切った掌を握り締めた。
「…ごめんなさい」
こんなとこで、まだ征十郎は今のままなのに…。
零れそうになる涙を堪えた。
「帰るぞ」
「先に行ってちょうだい。携帯を拾ってくるわ。もし誰かに拾われたら、私も拾った人も困ってしまうから…」
「ならば、そこで待っている」
下を俯いたまま、私は征十郎の横を通り過ぎた。