第12章 本当にそうかしら
すると、また一つ、私を呼ぶ懐かしい声。
「さっちゃん…大ちゃんも…」
試合を終えたばかりの大ちゃんとさっちゃん。
周りに桐皇の選手が誰一人見当たらない、ということは、また大ちゃんがミーティングをサボったんだろう、と察する。
「メールありがとう。ほら、大ちゃんもお礼言って!」
「あ?ああ…その、試合には負けちまったけど…助かった」
「いいえ、どういたしまして」
久しぶりの懐かしい雰囲気。
心地よい感覚の中、私の顔には自然と笑みが浮かぶ。
「華澄、その制服にジャージ…やっぱり…」
「ま、いくら赤司が隠そうが予想はついてたけどな」
「…ええ」
さっちゃんと大ちゃん、テツ君も私の来ている洛山のジャージを見ながら、複雑な表情を浮かべる。
その様子に私も寂しげな表情で俯き、中学の終わりに、征十郎に「付いて来い」と言われた時のことを思い出した。
「『付いて来い』って言われて、黙ってるようにも言われたの…。ほら、あの人の言うことって絶対でしょう?」
「藍川さん…」
「私、もう行くわね?あまり遅いと今度こそ征十郎に怒られちゃうわ。それと、テツ君。これ、お宅の監督さんに渡しておいてもらってもいいかしら?」
「これは…」
テツ君に私、鉄心の膝のテーピング方法を細かく書いた一枚の紙切れを渡した。
「じゃあ、またね」
「うん、バイバイ!気を付けてね!」
三人に手を振ると、私は再びその手をポケットに仕舞い、背を向けて歩き始めた。
「…大丈夫か、あいつ」
私を心配する声は、冬の冷たい風に遮られた。