第11章 夏の大三角形なのよ?
そう言うわけで、今日の部活はトレーニングルームで各自筋トレ。
今日も私はノートを片手に、一人一人の体調や練習の具合をチェックする。
「はい、タオル」
「どうも」
部員が各々自分の体と相談しつつ、適度に休憩を取りながらトレーニングをする中、征十郎は誰よりもそれに励んでいた。
漸く、一区切りつけたあたりで、私は彼にタオルを渡す。
「たまんねーな。ただでさえ天才なのにあんなストイックにやられちゃ…。あれが勝利への飢えってやつか?」
私の隣で征十郎の様子を見ていた先輩が、ふとぼやくように言った。
その言葉に私はフッと口角を上げた。
「いいえ、そんな生ぬるいものではありませんよ」
「え?」
私がそう言うと、先輩は首を傾げて私を見下ろす。
「勝つためにどうこう、とかそういう話じゃないんです。以前彼は言っていました」
征十郎が中学時代に言っていた言葉を思い出しながら、私は続けた。
「勝利することは息をしていることと同じことだと。彼にとって勝利は求めるものではなく、生きていく上であって当然…基礎代謝と変わらない、と」
「へぇ…」
私が言い終えれば、隣に立つ先輩は感心したような、どこか恐ろしい怪物を見るような視線を征十郎に向けた。