第11章 夏の大三角形なのよ?
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今日の部活も通常通り。
いつものようにドリンクとタオルを用意して、洗濯、選手の身体チェックやらテーピングやらを行う。
「藍川…」
「何ですか?」
その通常業務をこなしていた時、樋口先輩が暗い表情で話し始めた。
「WCのベンチなんだけどさ…やっぱマネージャー枠で座るのは、藍川だよな」
「……」
樋口先輩の言葉に、私は思わず俯いて何も答えられなかった。
三年生の樋口先輩は、今度のWCで引退。
どう考えてもベンチに座りたいに決まっている。
だが、こればかりは私が「樋口先輩にベンチを譲りたい」と言ったところで、どうにかなるものではない。
全て征十郎の一存だ。
「俺さ、元々は選手だったんだ」
「…そうだったんですか」
練習風景を眺めながら樋口先輩は話し始めた。
そういえば、こうやって樋口先輩が自分のことを話すのは初めてかもしれない。
「でも、二年に上がる前に怪我しちまってよ…完治して戻って来てみれば『無冠の五将』がいるだろ?だから、もう選手は無理だなって、その時思ったんだ」
「それで、マネージャーを…?」
「ああ」
樋口先輩は入部した時からマネージャーなんだと思っていたし、そんなことがあったなんて知らなかった。