第10章 どんな顔をするのかな
すると、征十郎はまたもやため息をつき、私に言った。
「…華澄は後ろに乗ればいいだろう。その方が効率よく早く戻れる」
「は?」
「早くしろ」
「あ、はい…」
征十郎に言われ、私は征十郎の跨る自転車の後ろの荷台に乗り、征十郎の練習着の裾をつまんだ。
私が乗ったことを確認した征十郎は、自転車を漕ぎ出す。
「(征十郎が自転車なんて…シュールね)」
「今、失礼なことを思っただろ」
「人の心情を勝手に読まないでくれるかしら?」
にしても、まさか征十郎が二人乗りを自ら申し出るなんて思わなかったわ。
こんなの学校側に見つかれば、どうなることやら。
と思いながらも、自転車は私が漕ぐよりも早いスピードで進んでいく。
「……」
私は征十郎の背中に抱き付いた。
「そんなにくっつかれると暑いんだが」
「いいじゃない、偶には」
「……」
何も言わないということは、このままでいいと言うこと。
練習中だった征十郎の背中は汗臭い。
でも嫌いじゃない、寧ろ好きな匂い。