第10章 どんな顔をするのかな
なんて思ったが、征十郎の目がいつもより優しい気がして、私の口元は思わず緩んでしまう。
「(あら…?今、一瞬。目が…)」
左右で少し虹彩の異なる征十郎の目が、一瞬だけ前に戻ったような気がした。
が、それも気のせいだったようで、瞬きをした次の瞬間にはいつもの征十郎の目に戻っていた。
「早く戻るぞ」
少し首を傾げた私に一瞥くれると、征十郎はそう言って、停めてある自転車に跨る。
「…ちょっと。それ、私が乗ってきてるんだけど。自分のはないの?」
「そんなものがあると思ったのか。僕は歩いてお前を探しに来たんだ」
「だったら私が漕ぐから、征十郎は走りなさいよ」
私が言えば、征十郎はいつもの、お前は馬鹿かとでも言いたげな表情を浮かべる。
だが、ここで私も食い下がるわけにはいかない。
征十郎の漕ぐ自転車を追いかけて、この暑い中走るなんてごめんだ。