第2章 聞いてないわ
私は小さく息を吐いた。
「…根武谷さんは『永ちゃん』で?」
「おう」
「話がまとまったのならば帰るぞ」
私がこのお三方をどう呼ぶのか決まったと同時に征十郎は、私たちに背を向けて歩き始める。
それを見送っていると、数歩歩いたところで征十郎は立ち止まり、振り返る。
「何をしている。華澄も一緒に帰るんだ」
「はい?いいわよ、一人で帰れるわ」
「一人暮らしの女を流石に一人で帰らせるわけにはいかないだろう。それに僕も話がある」
「カスミン、一人暮らし?!」
征十郎の言葉に食いついたのは葉山さ…じゃなかった、コタちゃん。
「はい。洛山は男子寮しかなかったので」
これも洛山に合格した後に知った事実。
あの冷酷非道の魔王は、重要なことは何一つ教えてくれなかった。
勿論、私は先程同様に征十郎に詰め寄ったが、彼は「僕の別宅がある。そこに住むといい」などふざけたことをぬかす始末。
そう言うわけにもいかない私は、仕方なく一人暮らしを始めることとなった。
「そーなんだ。今度遊びに行っちゃおーっと」
「もういいだろう、帰るぞ」
「あ、ちょっ…待ってよ」
いい加減このやり取りに飽きた征十郎は、それだけ言ってまた歩き始める。
私も慌てて彼の背中を追いかけた。