第10章 どんな顔をするのかな
先程までドリンクを作る私の隣で涼しんでいたコタちゃんの言う通り、夏休みなどあっという間に終わることは、目に見えてわかっている。
「別に?マネージャーをするために洛山まで来てるんだから、遊びたいってわけじゃないわよ?誰も海へ行きたいだとか、花火したいだとか微塵も思っていないわけだし…」
「さっきから何を一人でぶつぶつ言ってんだ」
「?!」
体育館からはまだ、バッシュのスキール音やボールを突く音が聞こえている。
ここにいるのは私だけだと思って独り言を呟いていれば、いつの間にか真横に立つ黛さん。
「…ただの独り言です。それと、ミスディレクションしないでください」
「してねーよ」
元々影の薄い黛さんの気配を、瞬時に察知することは難しい。
そう言えばテツ君もこんな感じだったな、とふと思い出した。
「藍川でも海に行ったり、花火したいって思うんだな」
「思ってません」
「今、言ってたじゃねーか」
私の独り言を聞いていた黛さんは、私がたった今作ったばかりのドリンクを口にしながら言った。
「…そりゃ、夏休みですし、まだ京都観光も一切してないわけですし…少しは思いますけど、練習を休んでまでしたいとは思いません」
これは本音。
「あっれー?黛さんどこ行ったー?」
体育館の中から、一際大きなコタちゃんの声が聞こえてくる。
「呼ばれてますよ」
「相変わらず声でけぇな…」
私が言えば、黛さんは面倒くさそうにして、体育館へ戻って行った。