第9章 条件があるわ
少しバツの悪くなった私は、視線を斜め下に向ける。
「私、もう行くから。…それと、今ここで私に会ったことは絶対にあっくんには言わないでちょうだい」
「…君がそうして欲しいと言うのなら、黙ってるよ」
「そう…それじゃあ私はこれで…」
「華澄ちゃん」
氷室さんが呼び止め、私は彼に背を向けたまま立ち止まった。
「もし何かあった時のために…これ、俺の連絡先」
「要らないわよ、そんなもの」
「いいから。今シュウはアメリカだ。もしもの時、すぐに駆けつけることはできない」
ポケットに突っ込まれたままの私の手を引っ張りだし、無理やり握らせられた紙切れ。
私はそれを再びポケットに突っ込むと、小さく「ありがとう」とだけ呟いてその場を去った。