第9章 条件があるわ
だが、昨日からは会場が同じ。
しかも今日は準決勝であるためにチームも少なく、バッタリ偶然、ということが起こる可能性がある。
「…今なら、大丈夫かしら…皆、今頃試合中のはずだし…」
私はこそこそと怪しく控室を出て、すぐ近くのトイレに駆け込んだ。
誰にも見られることなく控室へ戻ろう、としていた時。
私は意外な人物と対面を果たした。
「ん?君…確か…」
突然呼び止められ、振り向くと、長い前髪で左目が隠れた涙ボクロが特徴的な彼。
見覚えのない彼に、もしかして以前どこかで…?と思い、記憶を辿ってみるが、やはり見覚えがない。
「うん。写真で見た通り、凄い美人さんだね」
「はあ……えーっと…どちら様でしょうか?」
新手のナンパ?
微笑みかける彼に首を傾げながら、私は問いかけた。
「ああ、すまない!俺は氷室辰也。君、シュウの従妹の藍川華澄ちゃんだね?」
「!」
氷室辰也…。
間違いなく、先日修ちゃんが言っていた彼だ。
よく見れば、彼の手にあるバッグには『陽泉』と書かれている。
「…あなたね……よくも余計なことを…」
こいつがあっくんに余計なことを話さなければ、こんなに私が頭を悩ませることはなかったのに。