第8章 我が儘か
おそらく、彼の中で私と黛さんは、素直に言うことを聞かない困った奴、に分類されているのだろう。
最終的には、言うことは聞いているのだから、少しの抵抗くらい目を瞑って欲しい。
「(私だって、あなたの”あの目”が出る前には言うことは聞いてるわよ)」
有無言わさない”あの目”。
あの目が出てしまう前には従わないと、後で痛い目に遭う。
何より、昔のことを思いだしたり、自分の罪の意識にとらわれてしまうため、できれば”あの目”には捕まりたくはない。
そう思いながら、練習に目を向ける。
「(やっぱり二年生がいないと、多少は見劣りするものね)」
いれば煩い、と思う彼らだが、いないとなれば寂しいわけで、早く帰ってこないかしら…なんて柄にもないことを考えたりする。
「(征十郎も…入学当初に比べたら丸くなったほうかしら…?)」
中学時代の後半は、普段の学校生活はそこまで変化は見られなかったように思うが、正直近寄りがたい雰囲気を醸し出していたし、遠目から見ても、彼は怖かった。
だからこそ、私もあまり話すことはなくなったし、話すと言っても部活のことだった。
だけど今は、あの頃、とまではいかないが、話すようになったし、部活でもオーラはあるが、いい主将な気がしなくもない。
「(レオ姉たちのおかげも、あるのかもしれないわね)」
このまま、何事もなく。
以前の彼に戻ってくれればいいのに。
そう心の中で願うしかなかった。
「早く帰ってこないかしら…」
「今日、行ったばかりだろ」
いつの間にか隣に立っていた樋口先輩に突っ込まれたが、私は構わず不満げに口を尖らせた。