第8章 我が儘か
「永ちゃんは、それ以上筋肉を増やされても困るので、柔軟メインのメニューです」
「何でだよ」
「何ででもですよ」
他の二年生部員は筋トレやジョグをメインとしたメニューとそのダウンやケアを指示した紙を配ったが、永ちゃんのメニューは、柔軟とケアの指示しか書かれていない。
先程も言ったが、永ちゃんにはこれ以上筋肉を増やされても困るのだ。
スポーツをやっていくうえで筋力は必要不可欠。
だが、付け過ぎてしまえば、体は重くなってしまうし、上手く使いこなせなければすぐに固まってしまう。
「全員、華澄の指示に従って、修学旅行中だろうと、しっかりメニューをこなすように」
「「「ウッス」」」
私が部員に紙を配り終えれば、征十郎がそう言う。
「全く…メニューくらい自分で作りなさいよ」
隣に立つ征十郎を横目で見ながら、私は疲れた顔で言った。
「僕はそんなに暇じゃないんだ」
「私もそんなに暇じゃないわよ」
修学旅行へ行く二年生部員用のメニューを作れ、と征十郎に言われたのは、一昨日の帰り道でのこと。
二年生だけで一体何人いると思っているんだ、そう言うことは早く言え…などと文句を言ってやりたかったが、彼の有無言わさない威圧感から、私は渋々引き受けた。
おかげで寝不足である。
「そんな疲れた顔をしないで。ちゃんとお土産、買ってくるから」
そんな私を見て、レオ姉はウインクをしながら言ってくれる。
「(…別にお土産が欲しいわけではないのだけど…私が欲しいのは休養なのよ)」
内心そんなことを思ったが、口には出さず、とりあえずレオ姉に微笑み返しておいた。
「あーぁ、どうせなら冬に行きたかったなー」
コタちゃんは言う。
「今の時期じゃ、流石にあちらも雪はないからね」
「そうだよ!スノボやってみたかったのにさ!」
征十郎が憐れむようにして言えば、コタちゃんは必死にそれを訴える。