第6章 ありえませんよ
私が落ち込んでいると、征十郎は立ち上がり、保健室を出て行こうとする。
「部活まであと少し時間がある。それまで寝ていろ」
それだけ言い残すと、征十郎は保健室のドアを閉めた。
「相変わらず冷たいわね」
征十郎の出て行ったドアを見つめながら、私は小さく呟いた。
もう昔には戻れないんだ、と思うとまた悲しくなってしまう。
「(それにしても…)」
頭に残るぬくもり。
先程まで誰かに撫でられていたような感覚が、私の額に残っている。
まさか、征十郎が…?
「そんなわけないわね」
きっと夢でも見ていたに違いない。
今の征十郎が私の頭を昔のように撫でてくれるなんてありえないのだから。
私は征十郎に言われた通り、部活の時間までもう一眠りすることにして目を閉じた。