第5章 鬼灯の日記
気付けば人混みに埋もれ、藤堂さんの姿は見えなった。
そのまま足早に…って、物凄い勢いで人混みに紛れ込んだ。
「勝手に消えて面倒ごとを増やすな。」
やっとの思いで振り向いた彼はいつもとなんら変わらない瞳でそう言った。
「すみません…つい…」
浮かれて油断して、迷子になったのは他でもなく自分の落ち度。謝罪以外の言葉なんてなかった。
人混みだった事と、都合よく風間さんがまだ近くにいた事で今回は救われたけど、毎回そうとも限らない。
新選組の敵側に付くって事は、こういう事なんだから。
「あの、助けて下さってありがとうございます。」
「今回は偶々運が良かっただけだ。次は無い。」
ぶっきらぼうに、素っ気なく返す風間さん。知ってる表情が現実に、目の前にあるのは少し不思議で、でも間近で感じる分温かみを帯びていて。
今なら、答えてくれる気がして。
「私が初めて来た時も、今回も、どうして助けてくれたんですか?放っておく事だって出来たはずなのに。」
「物のついでに過ぎん。勘違いするな。」
前言撤回。見事に躱されました。
まあ理由は確かに気になるけど、たとえ教えてくれなくたって、助けてくれた事実に変わりは無いんだから。
「助けて下さってありがとうございます。」
その言葉を伝える事に変わりは無いんだから。