第5章 鬼灯の日記
「おい、人間。」
「あの、風間さん。流石にその呼び方はなんとかなりませんか?私の名前、教えました…よね?」
これは慶応元年、7月のある日の事。
風間さんは藩の命令で京に出向く事になり、私も共をする事になった。
その任務は禁門の変を受けての人々の心境の変化を調べるというもの。
「でも風間さん、どうして私がついていく必要があったんですか?」
「俺と来るのが気に食わないと言うか人間。随分と大きく出たな。」
「いやいや、そこまで言ってないですよ。ちょっと疑問に思っただけです。」
確かに私が同行する事に対する疑問は大きかったけど、外に連れ出してくれた事が少しだけ嬉しかったりする。
思えばこっちに来て以来、薩摩から出る事なんてなかったし。
勝手に行動できない身分だという事に変わりは無いけど、薄桜鬼は私の大好きな作品だから。その世界を実際に体験できる事に対する喜びはかなり大きなものだから。
ふと、隣に立つ風間さんを見上げる。
凛とした佇まい。心地いい風が髪を揺らして、冷静な表情は相変わらず。
知っていたはずなのに、どこか別人にも思えるのは、そこに風間さんが立っているということなんだろうな。
大きな背中。すごく頼もしい。
ゲームだと敵キャラだけど、今の私にとっては唯一の味方で。
「さっきからなんだ。」
「なんでもないですよ。確かに人ではないよなって思ってただけです。」
「何を今更。」
本当にどうして助けてくれたんだろう。