第4章 雨降って虹
「ここで少し待とう。」
そうして連れてこられたのは、一本の桜の木の下だった。
薄桃色の隙間から覗く緑が季節の節目を知らせる。2色が鮮やかに交わる桜の木の下で雨を凌いでいた。
「どうして木の下なの?」
「沢山荷物持ってるのに、またお店に入って何か買わされる事にでもなったらと…思って…」
語尾につれ、控えめになる声。
でもこの決断は、凛を思い、彼なりに考え導き出した答えであり、そう思えるだけで凛は嬉しかった。
「それに、」
「それに?」
「…前の、謝らなくちゃいけないと思って。」
もう一つの理由を聞くと、凛の中に生まれたものは疑問。たったその一つだけだった。
「そんな…謝らなくちゃいけないのは私の方だよ。以蔵君は助けてくれたのに…私は此の手を払って、逃げて…」
握られたままの手に改めて意識を向ける。
少しだけ強く握られていて、痛みを覚える。しかしそれ以上に暖かく、温もりが有り難い。
「僕は…その夜の事、今も間違った事をしたとは思ってない。だって、あの時僕が斬ってなかったら、君は無事に帰れたの?」
「そう。だから今回はわたしが全部悪くて…」
「…僕の人斬りの面を見て、嫌われたと思った。だから極力凛の視界に入らない様に動いてた。それが結果的には君を避けているだけで。だから、その…」
岡田が凛の前に姿を現さなかった事にも意味があった。凛の事を考えたが為の行動だった。その形がどうであれ、凛が不快だと思う事はなかった。
代わりに溢れてくる温もりが、雨の冷たさを忘れさせる。
「じゃあ私もごめんなさい、だね。私も以蔵君に嫌われたと思ったの。以蔵君はそんな人じゃないのに。勝手に勘違いしちゃって、ごめんね。
__________ありがとう。」
そして雨は止んだ。
薄っすらと見える虹が笑う。
季節は初夏へと向かっていく。