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【薄桜鬼企画】盧生の夢

第4章 雨降って虹


「以蔵君、わざわざ送ってくれてありがとう。」

「…先生の命令、だから。お礼、言うなら先生に。」

暗がりの中でも優しく微笑む凛と、闇の中に溶け込む岡田。

視界は暗闇に覆われ、互いを視認する事も難しい。それでもお互い近くに居るためか、何処か安心感は得られていた。

「先生の命令かぁ。それでも、最終的に送るって決めたのは以蔵君本人でしょう?だから、以蔵君もお礼言われても何もおかしくないよ。」

その凛の言葉も、無関心に聞き流すだけだった。所詮は武市の命令で擬似的に繋がれた関係性だと言うことなのだろう。
悪い印象があるわけでもなし、しかし特別いい印象がある訳でもない。

微妙な間柄に少しだけ溜息を漏らしたその時だった。

「…止まって。」

「え?」

不意に耳元で囁かれた一言。
一瞬何の事だかさっぱりだった凛も、いつの間にか周囲からの足音に耳を傾けていた。

1人、2人、いやまだ聞こえる。
凛が状況を把握した頃には既に四方を囲まれ逃げ道などなく、そして薄っすら聞こえた鞘から刀を抜く金属音がスッと響く。

「先生は、"無事に送り届けなさい"って言った。」

そして凛は、敵に囲まれた事の恐怖は一切感じなかった。
感じる隙がなかった、と言うべきか。

慣れた手つきで、浪士たちを蹴散らしていく。
夜中でもはっきりと映る鮮血の粒が空気中で踊るその光景を目の当たりにして感じたものは最早一つだけに絞られた。

この時凛が感じた恐怖。
身近な人物が、一瞬にして変わってしまった恐怖。

自分でも気づかぬ間に足はわなわなと震え、立てなくなっていた。

「ん。」

そうして差し出された手。
血で汚れた、暗殺者としての彼の手。

「…ぃゃ。」

手を弾く音で初めて我に帰った。その時にはもう遅い。

「…っ」

謝罪の言葉も何も出る事はなく、払った手のもどかしさだけを握り締めて、足早にその場を離れていった。
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