第4章 雨降って虹
「全く最近の新選組は調子付いて小賢しい事よ。」
「ああ。先ほども一件。茶屋に御用改めだそうだ。」
「新選組め…今に見ておれ!」
そんな意見が飛び交うここは食事処、丹虎。
藩邸がすぐ近くにある事から、いつの間にか勤王を掲げる志士達の溜まり場になってしまった、そんな店である。
「お代わりお持ち致しました。」
「お、悪りぃな嬢ちゃん。まだ若ぇってのに毎日精が出るなぁ。」
「いえいえ、お仕事ですから。」
がたいの良い志士達をすり抜けて、料理を並べ、柔らかに笑うその少女は、人斬りの時代に身を寄せながらも、そんなお偉方の事情などに振り回されず懸命に生きている。
一般人故に信じている安全と、その先も笑っていられる未来を強く望む。
これは何処かにありそうな在り来たりな話かもしれない。
しかし彼女、凛にとっては間違いなく大きな分岐点となった、大切な日常。
「相変わらずここは賑やかだな。」
「武市様!いつもご贔屓にして下さりありがとうございます。いつものお部屋を開けておりますのでそちらへどうぞ。」
「すまんな。では失礼する。」
店の常連、土佐勤王党の筆頭である武市半平太が顔を覗かせれば、ほのかに花の香りを漂わせ、いつものように笑顔で対応する凛。
「いらっしゃい、以蔵君」
意識して見なければその存在に気付かない。気配を消して武市の後ろにつくのは武市の弟子で同じく土佐の岡田以蔵。彼もまた常連…と言いたいところだが、師である武市の共をしているだけだと考えれば、そうでもないのかもしれない。
しかし、少しだけ頷きを返されるところを見ると、それなりに心を通わせたのだろう。
そんな光景が微笑ましくなる、とある日の晩刻。