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希望の果てにあるものは

第14章 非常事態


「あの、シロさ……水原さん、どうかしたんですか?」


シロさんと言いかけたのを水原さんと訂正して尋ねる。
彼の本名がわかった今、ニックネームで呼ぶ必要はないと思ったからだ。
私が声をかけると、水原さんはとうとう泣き出した。
なるべく優しく話しかけたつもりだったがダメだったようだ。


「……いやだ」

「嫌って……何がですか?」

「水原悠なんて、知らない。……シロがいい」

「ええ? いったいなんで……」


確かに私としては、シロさんの方がずっと呼んでいたため呼びやすい。
けどせっかく本名がわかったのだ、シロさんもようやく知ることができた本名で呼ばれたいはずだと思ったのだが……。
まさか泣くほど私がつけたニックネームを気に入っていたとは。
ほんの数秒で考えた、なんの捻りもないニックネームだというのに。
見た目が白いからシロ。まるでペットにつけるような名前。
ここまで気に入られるとなんだか申し訳ない。もっと真剣に考えればよかった。


「……蒼がくれた名前がいい。……僕の体は『水原悠』だけど、記憶がない僕は、水原悠じゃなくて、シロだから」

「あ……そうですね、確かに……」


ここにいるのは『水原悠』じゃない。
記憶を失った『シロ』という別の人間なのだ。
肉体は同じでも人格が違えば、それは別人ではないだろうか?
少なくとも私とシロさんはそう思っている。
ならば『水原悠』と『シロ』は別人ということにしてしまおう。
どうせここには『水原悠』を知る人間はいないのだから。


「わかりました。じゃあこれからもシロさんって呼びますね」

「……うん!」

「……!」


シロさんは嬉しそうに笑った。
基本的に無表情のシロさん。
だが別にまったく笑わないというわけではない。だけど。


(こんな満面の笑み、初めて見た……)


こんなに嬉しそうな顔もできるんだな、と驚いた。

……ついでに言うと、ほんの少しだけドキッとした、気がする。

 
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