第14章 非常事態
いくつも並べられている棚から適当にファイルを一冊取り出す。
ファイルに目を通すが、最後まで読むことなく閉じる。
専門用語らしきものが多く使われているこの文章を理解するのは無理だ。
こういうとき、もう少し勉強しておけばよかったと思う。
勉強していたとしても、この文章を理解するのは難しかっただろうが。
ファイルを棚に戻して別のファイルを手に取る。
ぱらぱらとページをめくるがやはり理解はできず、ファイルを棚に戻す。
(そもそもなんで読もうと思ったんだ、私)
いや、理由はわかっている。
ファイルを手に取った理由は単なる好奇心だ。
この建物のことや【Failure】についてなどまったく考えていなかった。
ただ本当に好奇心で手に取ってみただけで……。
心の中で色々と考えていると、ふと一冊のファイルの背表紙が目に留まる。
背表紙には『被験者データ1』と書かれたラベルが貼られていた。
無意識に私はそのファイルを棚から引き抜いてぱらぱらとめくる。
ファイルに綴じられた紙の左上には人間の写真が貼られ、その下には恐らく写真に写っている人間のものであろうプロフィールが書かれていた。
写真の真下にある名前の隣には、数字も書かれている。
「……数字……」
最初のページの数字は1。
最後のページの数字は10000。
このファイルには一万人分のプロフィールが綴じられている。
数えたわけではないが、そう考えるのが自然だろう。
プロフィールとはいえ簡易なもので、一ページに十人分のプロフィールが書かれているとはいえ、一冊に一万人分なんて、さすがに詰め込みすぎだと思う。どうりでファイルが分厚くて重たいわけだ。なんせ千ページもあるのだから。
ファイルを戻して横の『被験者データ2』と書かれたファイルを手に取る。
これには10001から20000までの数字がつけられた人のデータが書かれて綴じられていた。
隣の『被験者データ3』も、その隣の『被験者データ4』も同じ。
斜め読みしているだけとはいえ、いい加減疲れてきた。
だが『被験者データ』という背表紙のファイルはまだまだある。
「……はあ」
頭痛がしてきたのは気のせいだろうか。