第14章 非常事態
さっきまで普通に歩いていた。
襲ってくる【Failure】を津山さんが倒し、五人でたわいない話をしながら。
撃っても倒れない【Failure】はあれ以来姿を見せない。
このままずっと現れなければいいのにねって、健斗君が言って。
真琴は相変わらず私以外の人とは喋ろうとせず、シロさんはほとんど会話に参加することはなくて、健斗君の言葉に答えたのは私と津山さんだけ。
津山さんはそうだなって言って、私もそうだねって答えて。
三人が倒れたのは、その直後だった。
ふいに真琴が糸が切れた人形のように崩れ落ちて。
驚いた私が真琴の名を呼ぶ前に、津山さんと健斗君も背後で倒れた。
三人は苦しげな顔はしていないが、ぐったりとしていて動かない。
額も手と同様に冷たいため、熱はないようだ。
真琴の左胸に耳を押しつけると、規則正しい心臓の鼓動が聞こえてきた。
念のため津山さんと健斗君の心音も確認したが、二人とも異常はない。
「よ、かった……」
三人が生きていることに安堵する。
けど、三人の体になんらかの異常があることに変わりはない。
ここにいるのは危険だと判断した私は三人を移動させることにした。
だが辺りを見回しても部屋の扉らしきものは見つからない。
さっきの部屋からはだいぶ離れてしまっている。
(……どうしよう)
距離があるとはいえ確実に場所がわかっている部屋へ連れていくか、あるかないかもわからない部屋を求めて先へ進むか。
あの部屋の扉は壊れているため安心して休むことはできない。
かといってこのまま先へ進んで部屋がなかったら……。
それに、そもそも三人を一気に運ぶことなんてできるのだろうか。
「……進もう」
そんな私の考えを読んだかのように、シロさんは言った。
真琴と健斗君を軽々と脇に抱えて立ち上がるシロさんを見て唖然とする。
シロさんは意外と力持ちだったようだ。
健斗君といいシロさんといい、人は本当に見た目によらない。
「蒼。透、運べる?」
「えっ? あ、うん。ちょっと引きずることになると思うけど……」
津山さんの前に背を向けて座り、両腕を肩に乗せる。
立ち上がると、ズシリと肩に重みを感じた。
背負うのはさすがに無理だが、こうやって引きずっていくならなんとか……。
「行こう」
そう言って歩き出したシロさんを追った。