第11章 BAD END
「こうやってちゃんと両手で握って、照準からズレないように固定する」
「こ、こう?」
「そう。で、引き金を引く」
銃の扱い方を教えてくれと頼まれた私は、健斗君の背後に回り、彼の手に自分の手を重ねてしっかりと銃の握りかたを指導する。
数メートル先には、こちらへ手を伸ばしてくる【Failure】がいる。
健斗君が撃とうとしているのは、あいつだ。
普通は練習に使われるのは丸い的紙と相場が決まっているが、あいにくここにはそんなものはないし、貴重な銃弾を簡単に消費するわけにはいかない。
ならば、襲ってくる【Failure】を的にしてしまえばいい。
あれを倒すのが目的のため、練習というより本番という感じではあるが。
(ずいぶんと余裕があるものだ)
倒すべき敵を銃の練習のための的に使うだなんて。
健斗君から離れ、撃ってみるように言う。
小さく頷いた健斗君は、人差し指で引き金を引いた。
撃ちだされた弾丸は【Failure】の右目をえぐって壁に穴を空けた。
頭を吹き飛ばしたわけではないが、【Failure】は死んだらしい。
ふらりとよろめいた【Failure】は壁に肩をぶつけてそのまま倒れた。
「や、やった! やったよ蒼ちゃん!」
「すごいよ! おめでとう健斗君」
「うん!」
薬によって生かされているだけとはいえ、仮にも生きていたものを殺して喜んでいるなんて不謹慎だとは思うが、だからといって殺すごとに罪悪感を感じていては、いずれ罪悪感に押し潰されてしまう。
こうやって笑っている方が、いくらか気分が軽くなる。
「っと、また来たね」
「次は僕一人で大丈夫だよ。蒼ちゃんは見てて」
意気揚々と銃を構える健斗君。
まだ心配ではあるが、現れた【Failure】からここまでいくらか距離がある。
健斗君が外しても、どうとでもなる距離だ。
健斗君が撃った弾は意外にも【Failure】の額に命中した。
たった三回目で命中されられるなんて、彼には銃の才能があるのかもしれない。
「……あれ?」
そう、たしかに弾丸は【Failure】の額に当たった。
なぜかいつものように頭が弾け飛ぶことはなかったが、【Failure】の額には弾が通過した証である小さな丸い穴が空いている。
だが、【Failure】は倒れず、こちらへ向かってきた。