第2章 スタート
聞き覚えのある音。
いわゆる発砲音というものだ。
恐る恐る振り向くと、頭部のない化け物の死体が転がっていた。
床には元は頭部の一部であったのだろう肉片が大量に飛び散っている。
化け物の首からは緑色の液体が流れ出ていた。
「うっ……」
あまりに凄惨な光景と狭い廊下に蔓延する異臭。
目を背けて吐き気を抑える。
あのままあの光景を見ていたら本当に吐きそうだった。
頭が混乱して何がどうなっているのかわからない。
「……おい」
頭上から降ってきた声に反射的に顔を上げた。
「ひ、と?」
「……少なくとも、あれと同類ということはないな」
黒髪の男。
男が指差す先にはあの死体がある。
あれと同類でないということは彼も私と同じ人間なのだろう。
私の目にも目の前の男は化け物には見えなかった。
男は私の腕を掴んで無理矢理立たせる。
わずかに震えているが、足はいつのまにか動くようになっていた。
だがさすがに普通に立つことはできず、背中を壁に預けた。
額から流れていた血を袖で拭う。幸いなことに、血はもう止まっているようだ。
「おまえも誘拐されたのか」
「おまえもってことは、ええと……お兄さんも?」
「……ああ」
男も気絶させられてここに連れてこられたようだ。
まだ完全に信用することはできないが、男は敵ではないらしい。
「……お兄さんが私を助けてくれたの?」
「偶然これを持っていたからな」
男は手に持っていた銃を顔の前に掲げた。
テレビなんかで見たことはあるが、生で見たのは初めてだ。
興味本意で黒光りする銃に手を伸ばし、指先が触れそうになった瞬間、男はさっと銃を自身のズボンのポケットにねじ込んだ。
行き場をなくした手を無言で下ろす。
「おまえ、名前は?」
「……蒼。篠塚蒼」
「オレは津山透(つやまとおる)だ」
津山と名乗った男は興味なさげに私から視線を外す。
聞いたのはそちらだというのに、なんなんだ。