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希望の果てにあるものは

第9章 日記


二十六ページ目の文章を読み終え、私は日記を閉じた。
狂っている。いや、狂ってしまったのだろう。
モルモットで成功しないのならば人間を実験台にする? ふざけるな。
実験台にされた研究員たちはさぞや怖かっただろう。泣きわめいただろう。
酷すぎる。こんなの、人間のすることじゃない。

この惨劇は、恐らく私たちがいるこの建物内で行われたことだ。
これで研究所らしき場所に牢があった理由がわかった。
日記が置かれていたあの場所は、研究室でもあり、日記を書いた人の部屋でもあったのだろう。思い返してみれば、研究室と書かれたプレートには他にも何か書いてあったような気がする。もちろん、掠れていて読めなかったが。
だから粗末とはいえベッドがあったのだろう。寝心地はかなり悪そうだった。


「…………」


頭は読めと言っている。
心は読みたくないと叫んでいる。
手は、早く読み進めろとページをめくった。


『死んでいる。体は腐り、ウジ虫が群がっている。
この薬はダメだった。次の保存していた薬を数名の研究員に与える。
心臓の停止を確認したのは投薬してから二日後のことだった。
その時点では特に体に変化は見られなかった。
だが翌日、死体を運ぶために檻へ向かった研究員が被験者の異変を確認。
たった一日で死体が腐るなどありえないが、死体はたしかに腐敗していた。
モルモットにはなかった死後変化だ。やはり、人とモルモットは違う。
死んだ人は可哀想だが、これは研究を成功させるために必要な犠牲なのだ。
異臭を放つため、死体は焼却。次こそ成功してほしい』


悪寒が走る。
額から冷や汗が流れ落ちた。

腐敗した死体。
思い出すのは扉の向こうにいる化け物たち。
私は初め、化け物のことを“ゾンビ”のようだと感じた。
ゾンビとはたしか、死んだ人間が死体のまま蘇ったものだったはず。

日記に書かれている、死後死体が腐敗した人。
この建物内にいる体が腐った化け物たち。

まさか、あれらは死んだ研究員たちなのでは――――――。


(……まさかね)


日記によると、死体は焼却されたそうだ。
ゾンビになる前に燃やされたのなら蘇ることはできないだろう。
嫌な考えを頭から無理矢理追い出し、止まっていた手を再び動かす。

ページをめくった。

 
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