第9章 日記
ページをめくる。
次のページにも似たようなことが書かれていた。
必ず出てくる『失敗』と『ごめんなさい』という言葉。
これを書いたのは、薬の開発・研究を行っている女性のようだ。
まあもしかしたら女っぽい言葉を使う男という可能性も捨てきれないが。
日記には『成功すればずっと生きていられる』と書かれていた。
永遠に生きるとは、すなわち不死ということ。
この人が作ろうとしているのは、投薬したものを不死にする薬……?
まさか、そんなものを本気で作ろうとしている人間がいるとは驚いた。
漫画や小説の読みすぎではないのか、と呆れてしまった。
(ああ、そういえば……最初のページに『時間はあまり残されていない』とか、『死にたくない』とか書いてあったっけ)
日記を書いた人間は若く思えたのだが、実はお年寄りなのかもしれない。
あるいは病気かなにかで死期が近い人なのか。
まあいずれにせよ、私には関係ないことのように思えた。
だが、ページをめくる手は止まらない。まるで読めと急かされているようだ。
薬の改良や開発に失敗したことが書かれているだけの日記。
変化が訪れたのは、二十六ページ目のこと。
『なぜ今まで気づかなかったんだろう。
この薬は人間に使うもの。モルモットに与えても意味がない。
モルモットに投薬したものは全て失敗してしまったが、これを人間に投薬すれば成功するかもしれない。本当に、なぜ気づかなかったんだ。
このことを他の研究員に話したら、八割の研究員に反対された。
けど、ずっと私と薬の研究を続けてきた二割の研究員は賛成してくれた。
反対した研究員たちを大型動物用の檻に閉じ込めた。
動物用の檻は可哀想だから、被験者用の檻も今度作らなければ。
明日、昔私たちが最初に開発した薬を彼らに与える。
モルモットでは失敗したけど、きっと人間なら成功するはず。
檻の方から叫び声が聞こえる。ごめんね。でも、きっと大丈夫だから』