第9章 日記
化け物を倒している最中に見つけた部屋。
疲労が溜まっていた私は、健斗君に相談してここで休むことにした。
扉には鍵がついていないため、部屋にあった本棚で扉を塞ぐ。
これで安心して休める。キャスター付きのイスに座ってほっと一息ついた。
「ごめん、疲れてるのに気づけなくて……」
「健斗君が謝ることじゃないよ。気にしないで」
健斗君は疲れを感じなくなって……。
(……ダメだ、考えるな)
このことは考えないようにすると決めたのだ。
たとえそれが自分のことでなくても。
「あー……まあ今は一応安全だから、健斗君も休みなよ」
「うん。蒼ちゃんもね」
健斗君はそう言って本棚へ向かい、棚の二段目から二冊抜き取ると、健斗君はイスに座って読み始めた。
休みなとは言ったが、まさか読書を始めるとは……いや、何も問題ないが。
ただ、安全とはいえそれは一時的なもの。あの扉の向こうには、大勢の化け物がうろついている。そんな危険な場所の隣で読書ができるとは……。
(大物だ、健斗君)
最初に感じた弱々しいイメージなど、もう微塵も感じられない。
化け物に怯えて私の腕に掴まる健斗君はいったいどこにいったのやら……。
恐怖という負の感情が消えたのは喜ばしいことだが。
(……そうだ。今なら日記読めるんじゃ……)
健斗君は本に集中している。
彼が本を読んでいる最中に私が本を読んでいても不思議ではない。
ポケットに押し込んでいた日記を出して、ページをめくる。
一ページ目はすでに読んでいるため、次のページから読み始める。
『薬を改良した。さっそく動物に投薬する。
前に投薬したものは失敗だった。投薬された動物は全て死んだ。
ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
たくさんの動物が死んだ。私が無能だから。失敗作ばかり作るから。
けど、今度こそ成功させてみせる。きっと今度こそ大丈夫だから。
怖がらないで。泣かないで。成功すれば、ずっと生きていられるんだよ』
ページをめくる。
『失敗だ失敗だ失敗だ。またみんな死んでしまった。
けど、今度は本当に大丈夫。これなら大丈夫だって他の研究員も言ってた。
投薬担当の水原君も、大丈夫ですよって言ってくれてた。
水原君が十匹のモルモットに投薬した。
一匹でもいい。たった一匹でも生きてくれていれば……』