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希望の果てにあるものは

第9章 日記


「……ん?」

「どうしたの?」

「ああいや、誰かに呼ばれたような気がして……まあ気のせいだよね」


健斗君じゃないなら私の名を呼ぶ人はここにはいない。
津山さんかシロさんがどこかで私を呼んだとしても、聞こえるはずがない。
ただの空耳だと忘れることにした。

ある程度落ち着いた健斗君と共に廊下を進む。
私と健斗君は、『いくら考えてもわからないのだから、今は建物を脱出することに専念しよう』という結論に至った。
普段なら食欲も喉の渇きもないのは非常に困ることなのだが、飲食物のないこの場所ではむしろ助かることなのだと、前向きに考える私と健斗君。

自身の異常から目を背けているだけだとわかってはいる。
けど、こんな現実を正面から受け止められるほど、私たちは強くない。
誘拐されて、不気味な建物に閉じ込められて、殺そうと襲ってくる化け物と戦い続けて、それでも出口は見つからなくて。

体がおかしい? 普通じゃない?
これ以上そんな狂ったな現実を直視してしまったら、心が壊れてしまう。
現実から逃げることでしか、“自分”を保っていられない。
私たちはただの高校生なのだ。平和な場所で生きてきた、普通の子供。
自分の体が壊れていってるなんて、信じたくない。耐えられない。
後ろ向きなことを考えたら終わりだ。崩壊は、きっと一瞬のこと。


「そういえば、健斗君って学校どこ? 私は――――」


にこにこと笑う。
大丈夫。前を向いて、振り返らなければいい。
異常な現実なんて忘れてしまえ。私は“普通”だ。おかしくなんてない。

気を紛らわせるように雑談をしながら、私たちは先へと足を進める。

 
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