第8章 二人
【津山視点】
「――――動くな」
あまりに突然のことで反応が遅れた。
こちらから見て右の曲がり角から現れた女が、こちらへ銃口を向ける。
いつ化け物が現れるかわからないと警戒していたにもかかわらず、女が現れるまでその存在に気づくことができなかった。女は、気配を断っていた。
気配を断つなんて芸当、普通はできるはずがない。
何者なんだ、この女は。
「動くなって言ったの、聞こえてなかったわけ?」
「……ちっ」
体で隠しながらポケットに伸ばしていた手に気づかれたようだ。
銃を向けられたことなど初めてだが、女が本気だということはわかる。
オレが妙な真似をすれば、こいつはためらいなく撃つだろう。
見たところ、篠塚や香月と同い年くらい女……恐らく高校生だ。
あのなんの感情もない目が、ただの高校生にできるようなものなのか……?
首を動かさずに視線を女から隣のシロへ向ける。
シロは何を考えているかわからない目で女を見ていた。
いや、あの目は、たぶん何も考えていない。こいつはそういう男だ。
「……あたしを誘拐したのはアンタらじゃないよね?」
「違う。その逆だ」
「ふーん、アンタらも誘拐されたんだ。武器もあたしと同じ方法で手に入れたんだろうね。……じゃあ、ここがどこかわかる?」
「知らない。今、それも探しているところだ」
「まあ、期待なんてしてなかったけどね。“それも”ってことはアンタも出口探してるのかな。ま、こんな変なとこ、長居したくないもんね」
意外とよく喋るものだ、と思った。
目は明らかに『会話などしたくない』と言っているのに。
自分の感情より、より多くの情報を得ることを優先したということか。
馬鹿ではないらしい。少なくとも、あいつらよりは。