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希望の果てにあるものは

第8章 二人


混乱している頭をなんとか落ち着かせ、一旦休憩することにした。
健斗君の鼻血が止まったころに、私が今まで考えていたことを口にする。
――――『もしかして、体の機能を失いつつあるのではないか』と。


「それって、どういう……」

「前に疲労を感じないって言ってたよね。あと、食欲もなくて喉も渇かなくてトイレに行きたいと思わない……つまり催さないって」

「う、うん」

「上手いこと言えないけど、なんていうか、体の機能が消えてってるんじゃないかなって……。だから痛覚や疲労感とか感じないんじゃないかな。幸い、五感はまだあるようだけど、それもいつ消えてしまうか……」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 待って、少し考えさせて……」


健斗君はかなり混乱しているようだ。
急にこんなわけのわからない話を聞かされては無理もない。
この話はあくまで私の想像であり、確かなものではない。
けど、体の機能を失った、もしくは麻痺したということは紛れもない事実。
健斗君も、そして私も、受け入れなくてはいけないことなのだ。
たとえどんなに信じたくないことだとしても。目を背けてはいけない。

ほとんど痛みが引いた肩を動かす。
かなり癒えたとはいえ、わずかに違和感のような痛みがある。
食欲などがないのは健斗君と同じだが、まだ痛覚と疲労感は残っている。
これもいつ失うかわからないが。あと数秒後には消えているかもしれない。


(……やっぱり、誘拐犯に何かされたのかな……)


この首の数字。
これがもしもナンバリングだとしたら。
たとえば、なんらかの実験の被験者つけられた識別番号だとしたら……。


私たちはすでに“何か”をされているのかもしれない。


(……漫画の読みすぎ、だよね?)


ありえない、と自分の考えを否定する。
こんな漫画みたいなこと現実でありえるはずがない。
犯人はきっと身代金を要求するために私たちを誘拐したのだ。もしくは人身売買、あるいはただ人を殺したいがため。きっとそうに違いない。
だから、実験台にされたなんて、そんなこと、あるはずがない。絶対に違う。

目を背けてはいけない、なんて言っていたが。

本当に現実に背を向けているのは、私と健斗君、いったいどちらなのだろうか。

 
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