第7章 離別
なるべく足音を立てないよう、慎重に先へ進む。
あの化け物に耳なんてものがあるかなど私は知らない
なんせ、化け物たちは必ず肉体の一部が腐り落ちているのだから。
目、あるいは鼻、あるいは腕、あるいは胸、あるいは脇腹。
他にも様々な部位が腐り落ちている化け物の姿は、本当に気持ち悪い。
見慣れたとはいえ、やはり気持ち悪い。長時間見ていたら目が腐りそうだ。
とにかく、音で気づかれる可能性がないとは言えない。
化け物に見つからないよう最善を尽くす。
大量の銃弾が見つかれば、こうしてこそこそしなくて済むのだが……。
まあないものを求めても仕方ない。あればラッキー、程度に考えておこう。
(あ、そうだ。今ならあの日記読める)
誰もいない今がチャンスなのではないか?
……とはいえ、廊下の真ん中で本を読むなんて無防備なことはできない。
「……と、思った瞬間に部屋を見つけるとか……」
運がいいんだか悪いんだかわからない。
この日記はどうしても私に読んでほしいようだ。
見つけたばかりの部屋に入ろうとして――――足を止める。
(最初に見つけた部屋には、中に化け物がいたっけ)
この部屋にいないという確証はない。
津山さんがしていたように、銃を構え、壁に背をつける。
ここに津山さんはいない。こうして安全を確認するのも今は私の役目だ。
心を落ち着かせ、そっと左手で扉を二回ノックする。
コンコン、と静かな廊下に音が響いた。――――瞬間、扉が開け放たれる。
「で――――、っ!」
出た、と叫びそうになるのをこらえる。
騒いでいる暇などない。目の前の敵を倒すことに集中しなければ。
部屋から出てきたのは頭の一部が欠けている化け物。
欠けた部分からは脳が垂れ下がり、絶え間なく緑の液体が流れ落ちている。
これほどの至近距離で生きた化け物の姿を見たのは、これが初めてだった。
もっとも、これを“生きている”と言えるのかどうかはわからないが。
大丈夫、今まで何度も化け物が津山さんに撃たれる姿を見てきた。
津山さんと同じようにやればきっと大丈夫だ。
襲いかかってくる化け物の頭部に狙いを定め、引き金を引く――――!
「――――!」
銃口から放たれた弾丸は、化け物の鼻を撃ち抜いた。
頭が弾け飛び、頭部を失った化け物はゆっくりと後ろへ倒れる。
なんとか、倒せたようだ。