第6章 白い青年
「う、わぁ……」
部屋の中は、色々な意味ですごかった。
壁際に設置されたよくわからないけどすごそうな大量の機械。
床に散乱した文字がびっしり書かれている紙。
なぜか粗末なベッドまである。
共通点は、どれもホコリまみれで汚れているということだ。
ここは電気が通っているから、ホコリが溜まっていると危ないのでは……。
そんな心配を余所に、津山さんは床の紙を拾い上げて目を通している
紙についたホコリを払い落とすごとに部屋にホコリが舞う。
落ちている紙など読んでどうするのだ、と言いたいが、言ったところで無視されるかオレの勝手だろと言われるのがオチなので言わないことにした。
健斗君は興味深げに機械を眺め、シロさんは無言で扉の前に立っている。
さて、私は何をしようか。
化け物がいるであろう廊下に一人で待機するのは無理だ。
けど機械にも資料にも興味はない……ここはシロさんと話でもしようか。
「シロさん、何か思い出したこととかありますか?」
「……ない」
「まあそう簡単にはいきませんよね……。せめて名前だけでもわかればいいんですけど……」
「どうして?」
「どうしてって……名前は大事でしょう。それに名前がわかればニックネームで呼ぶ必要もなくなりますから」
私がつけたニックネームよりも自分の名前で呼ばれる方がいいだろう。
そう思って言ったのだが、シロさんはなぜか不満げだ。
何か気に障るようなことを言ったのかと不安になったが、そうではないらしい。
「……シロがいい。蒼がくれた、僕の名前。……オレの名前?」
「シロさん……。あ、別にオレでも僕でもどっちでもいいと思いますよ」
「……じゃあ、僕で」
シロさんは一人称すら決まっていなかったようだ。
それはそうと、シロさんは意外と私がつけたニックネームを気に入ってくれていたらしい。たった数秒で考えた、安直なものだというのに。
(まあ、それならよかったかな)
気に入ってくれたのならなによりだ。