第6章 白い青年
「……ん?」
「どうしたの?」
「ああいや、ちょっとね……」
シロさんと話をしていると、ふとあるものが目に入った。
ホコリがたっぷり積もっている机の上に置かれた、茶色い革表紙の本。
私はなぜかその本のことが気になり、それを手にとって眺める。
表紙には【日記】と書かれていた。持ち主の名はない。
(……少しだけ)
他人の日記を見るのはよくないが、私はどうしても気になってしまった。
ほんの少しなら大丈夫なはずだと自分に言い訳をし、本を開く。
紙は黄ばんでいるが、読めないことはない。
『また、失敗だ』
最初のページに書かれていたのはそれだけだった。日付はない。
日記には普通日付を書くものだと思うのだが……。
それに失敗したとはどういうことだ。何を失敗したんだ。
これを書いた人間は、日記を書くのが苦手なのかもしれない。
ページをめくる。
『こうしている間にも時間は過ぎていく。私の時間が減っていく。老いていく。死に近づいていく。時間はあまり残されていない。
焦っても仕方ないとはわかっているが、急がなければならないのだ。
早く薬を完成させないと、手遅れになってしまう。私は、死にたくない』
ぱたん、と本を閉じた。
いつのまにか息を止めてしまっていたようで、私は大きく息を吐き出した。
なんと言えばいいのだろうか。
これ以上読みたくないのに、読まなければならないと何かが言っている。
それがなんなのかはわからないが、その声を無視することはできなかった。
私はどうするべきなんだ。本を手放すべきか、続きを読むべきか……。
「――――何してるんだ」
「っ!! つ、津山さん……」
「……オレはもう行く。ついてくるなら勝手にしろ」
「あ、はい……」
津山さんは扉に向かう。その手には何もない。また収穫はなかったようだ。
突然声をかけられて、心臓が止まってしまうかと思った。
もう“勝手にしろ”は津山さんの口癖となっているらしい。
(なんで隠したんだ……)
津山さんに声をかけられたとき、私はとっさに本を背中に隠した。
理由はわからない。ただ本当に反射的に隠してしまったのだ。
別に見られても構わないというのに、どうして……。
「……津山さん! 待ってくださいよー!」
私は津山さんを追った。
――――ポケットに本を押し込んで。