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希望の果てにあるものは

第6章 白い青年


真っ白な男と話してわかったことはほとんどない。
男はどうやら記憶喪失らしいのだ。
誘拐されたのかどうかはもちろんのこと、男の名前すらわからない。
自分のことも、家族のことも、思い出も名前も全てわからないと言う男。
あまり困っている感じはしなかったが。


「よければ私たちと一緒に来ませんか?」


記憶喪失だというこの人のことを放っておくことはできなかった。
ここにいたらいずれ化け物に見つかってしまうだろう。
彼をここに放置し、あとで様子を見に来たらすでに食い殺されていた……なんてことになっていたらさすがに寝覚めが悪い。


「……いいの?」

「もちろんです! あの二人は私が説得しますんで。お兄さんはついてくるだけで……あ、そうだ」


私はとりあえずお兄さんと呼んでいるが、これから行動を共にするのならば他に呼び名が必要になるだろう。
健斗君と私はともかく、津山さんがこの人を呼ぶときに困ると思う。
名前をつけるとまではいかずとも、せめてニックネームのようなものを……。


「あの、お兄さんのことなんと呼べばいいんでしょうか」

「……名無し?」

「いやそれはちょっと……」

「……白い人?」

「あ、自分が白ずくめって自覚はあるんですね……。ああでも、それはいいかもしれませんね。白い人じゃなくて、“シロ”」


犬の名前みたいだとは言わないでほしい。
ニックネームをつけたことなどないのだから仕方ない。
お兄さんもなんでもいいと言ってくれているから、これでいこう。


「じゃあ行きましょう、シロさん」

「うん、名無しちゃん」

「…………あー……そういえば、名前言ってませんでしたね……」


けどなんで名無しちゃんなんだろうか。

 
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