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希望の果てにあるものは

第15章 現実


殺してくれと懇願されるが、わかったとも嫌だとも言えなかった。
殺せるはずがない。でも、津山さんは死ぬことを望んでいる。
私は津山さんが好きだ。好き、だからこそ、願いを叶えてあげたいと思う。
けど、津山さんが殺してくれと言うのは私たちのためだ。
津山さんは私を、私たちを殺したくないから自分を殺してくれと言う。

そんな優しい人を殺すなんて、私にはできない。


「はや、くっ……!」


嫌だと言う代わりに首を横に振る。
普通の人間を、それも命の恩人を殺せるほど、私は強くなかった。
私が強い人間だったなら、ここで頷くことができたのだろうか。

きっとそれでもダメだっただろうな、と思った。


「――――、あ」


津山さんが何か呟いたが、聞こえたのは最後の『あ』という言葉だけ。
ビクンと一度全身を痙攣させ、津山さんの体は床に崩れ落ちた。
普通なら、大丈夫かと声をかけて体を抱き起こすべきだろう。
けど、嫌な予感がして、私は動くことができなかった。

うつ伏せになった津山さんがゆっくりと起き上がる。
津山さん、と震えた声が口から出た。
うなだれた津山さんが顔をあげ、虚ろな目が私の目を捉えて――――――


「ああああああああぁっっ!!」


わかった、わかってしまった。
目の前にいる津山さんはもう私の知っている津山さんではないことに。
津山さんの目が【Failure】の目と同じように濁っていることに。


津山さんは、もう人間ではないということに、気づいてしまった。


ごめんなさい、殺せなくてごめんなさい。
なんでこんなことになったの。
なんであんなに優しい人がこんな目に遭わなくちゃいけないの。
津山さんが何をしたの、みんなが何をしたの、私がいったい何をしたの。
こんな酷い目に遭うほどのことなんてしてないのに、どうして。
嫌だ嫌だ嫌だ、もう嫌だ。帰りたい、家に帰りたい家族に会いたい。

誰か、助けて。


私の意識はそこで途切れた。

 
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