第15章 現実
首に触れると思っていた手は肩を掴んだ。
強く掴まれ痛かったが、津山さんの手を振り払うことはしなかった。
虚ろだった目にはわずかだが光が戻っている。
「オレ、は、もうダメだ」
「ダメって……どうしたんですか? なんでさっき私のこと……」
「自我が、なくなりかけて、るんだ」
途切れ途切れに話す津山さん。
自我がなくなりかけているとはいったいどういうことだ。
津山さんは、どうしてしまったんだ。
「もうすぐ、何も考え、られなくなる。もう、記憶も、ほとんどない」
「だ、だからどうしたんですか……」
「自我が、完全になくなれ、ば、またオレは、おまえを殺そうと、する」
津山さんは苦しげに顔を歪めながらそう言う。
なぜ、と聞きたくても、上手く声が出ない。
真っ直ぐに私の目を見据える津山さんの目を見つめ返すことしかできない。
肩を掴む津山さんの手はピクピクと痙攣している。
津山さんが次に言おうとしている言葉を、なんとなくわかってしまった。
津山さんの口を塞ごうとするが、手遅れで。
「――――オレを、殺せ」
津山さんの言葉が、私の思考を停止させた。