第15章 現実
何度も激しく咳き込み、咳が止まった頃にゆっくりと呼吸する。
あと少し手が離れるのが遅かったら死んでいたかもしれない。
死ぬのは怖い。
だから自分を殺そうとした人間に恐怖を覚えるのは当然のことだ。
けど、私はなぜか津山さんを怖いとは思わなかった。
きっと何か理由があったのだと、そう思わずにはいられない。
津山さんはなんの理由もなくこんなことをする人ではないからと。
「……津山さん」
「…………」
「蒼……」
津山さんは何も答えずシロさんは心配そうに私の名を呼ぶ。
シロさんに腕を軽く引かれるが、大丈夫だと言って私の背後へ下がらせる。
だらりと腕を垂らしてうつ向く津山さんの顔はここからじゃ見えない。
恐る恐る津山さんの顔を覗き込み……
――――呼吸が、止まる。
「ひ、っ……!」
異常、だった。
津山さんの目は虚ろで瞳孔が開ききっていた。
胸が上下しているため、息はしている。
だが、今の津山さんは明らかにどこか様子がおかしい――――!
「蒼っ!!」
「あ……」
津山さんの手が私に向かって伸びる。
このままだとさっきの二の舞になるにも関わらず、私は動けなかった。
津山さんから逃げるということをしたくなくて、動きたくなかった。
だって、津山さんは命の恩人で、何度も何度も助けてくれて、ついてくるなって言うのに、たまに私がいるかを確認するかのように振り向いて……。
優しい人だった。優しい人なのだ。
そんな優しい人に、なぜ背を向けなければならない?
ここで私が怯えて逃げ出したら、きっと津山さんを傷つけてしまう。
逃げたくない。だって私は、津山さんのことが――――――。
「……篠塚」
「……え?」
今、確かに、津山さんは私を呼んだ。