第2章 奏で始める
「……お、落ち着けっ」
「だって…」
「ココナ、それじゃあゼンも説明できない」
「え?…あ」
木々に言われて前を見ると、至近距離に苦笑いのゼンの顔がある。
あと数センチで唇が触れあう距離に、ココナは瞳を瞬きすると、「ご、ごめんなさい」と少しはなれる。
だが、二人とも紅くならず普通だ。
…そう。
普通なら、顔の何処かしら紅くなるのにこの二人はそれがないのだ。
ミツヒデと木々は慣れているのか、ミツヒデがゼンを促す。
「それで、どうしてココナも一緒に?」
「ロウに言われたんだよ。最近ココナが働きすぎで、二人が何を言っても休まないって聞かないから、息抜きさせてほしいってな」
「お父さん…お母さん」
「ちょうどいいから、散策に連れていくことにしたんだ」
「「なるほど」」
二人が納得したと頷くと、ゼンが口の端を上げココナに問う。
「行くだろ?というか、行くぞ」
「…っふふ」
「どうした?」
ココナがポカーンとしたと思うと、右手を口元にやりクスクス笑い出した。
急に何だ?と首を傾げるゼンに、まだクスクスと笑うココナが左手で目もとをおさえながら首を横に振る。
「…クスクス……っ…ううん、何でもない。そういう事なら、喜んで一緒に行きます」
「よし。決まりだな。ココナも準備があるだろ。みんな一時間後に門の所に集合だ」
「「了解しました」」
「うん、わかった」
嬉しそうに返事をするココナ。
ゼンが全員の顔を見回し、ひとまず解散となった。
ココナは三人と別れ、中庭をあとにする。
ネイビーの綺麗な髪を靡(なび)かして。
雲の少ないよく晴れた朝、運命の赤いリンゴと始まる物語まで……あと少し。
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