第8章 乱藤四郎
「主殿!不埒な輩に絡まれたとは誠ですかな⁈」
機動に優れた短刀である乱をも振り切って、息急き切った一期が大広間へと飛び込んで来た。瞬間、一手に注目を集めながらも、一期は気にもとめず審神者に食ってかかる。
「短刀は懐刀、常にお側に置いておくようあれほど申し上げましたのに一人で出歩き絡まれるとは何事ですかな乱れ刃故にあのような成りをしておりますが乱とて歴とした藤四郎が一振り常にお側にあれば斯様な事にはならなかったと存じますが此度は何事もなく終わったから良かったもののもし相手が歴史修正主義者であれば御命狙われていたやもしれませんぞ全く貴女というお方はもっと危機意識というものをお持ち願いたい」
あいも変わらずノンブレスで長台詞を言い切ると、一期はようやく追いついた乱に止められた。
「いち兄!主さん一人ですごく怖い思いしたんだからそれぐらいにしてあげて!!それに、そんなんじゃ逆効果だって言ったでしょ!!!」
痛い所を突かれたとでも言うように、ぐっと押し黙る一期。そこへ得心したとばかりに三日月と鶴丸が声をあげた。
「なるほど、不埒な輩に絡まれたとな…」
「ふむ、こんな驚きはいらなかったがなぁ…」
その眼には深い怒りの色があった。一方で直接的な行動に出ようとする者もいた。
「ちょっと待って長谷部君!本体持ってドコいくの⁈」
「離せ燭台切!主に仇なす輩は斬る!!!」
「もう、みんな!静かにして‼︎主さん今日は疲れてるんだからゆっくり休ませてあげてよ!ほら、行こ?主さん」
ちょっとしたカオスになりかけていた場を仕切りなおしたのは乱だった。審神者を大広間から連れ出し私室へ送り届けると、ぺこりと頭を下げた。
「ゴメンね主さん。ボクが側にいればあんなヤツらに嫌な思いさせられずに済んだのに」
「乱のせいじゃないよ、それより助けてくれてありがとう」
審神者がようやくいつものように笑ったのを見て、乱も笑顔になる。
「早くホントにねぇねって呼べるようになるといいなぁ」
その小さな小さな呟きは誰の耳にも届くことはなかった。