第2章 薬研藤四郎
審神者と薬研は、電車に揺られていた。夢の国の最寄り駅まで後二駅、車内には同じ目的地まで向かうであろう乗客が大勢いた。
「しっかしいち兄があんな過保護だとは思わなかったぜ」
「一期はただ心配してただけだよ」
出かけ際、忘れ物は無いか危ないと思ったらすぐに帰ってこいと口うるさく言っていた兄の姿を思い出して薬研は眉根を寄せている。審神者は笑って薬研の頭を撫でると車窓に目を向けた。大きな観覧車を通り過ぎたら目的地まですぐそこだ。薬研の肩をつついて車窓を指し示す。薬研の表情がみるみるうちに喜色に染まる。電車が止まってドアが開くと、薬研は我先にと走り出そうとした。審神者はそっと薬研の襟首をつかんで、人の流れに沿うように改札口を出る。そのまま右手へと進むと軽快な音楽が聞こえてきた。
「ここ通ると夢の国に来たーって感じするのよねー」
「た……姉貴は何度もここに来たことがあるのか?」
審神者は薬研に自分のことを姉と呼ぶよう命じていた。審神者と刀剣であることを隠す為である。童顔で実年齢より幼く見える審神者なら、薬研の姉だと言っても怪しまれないだろう。薬研の問いに審神者は少し寂しげに笑って答えた。
「うん、まあね。こっちにいた頃は毎週のように通ってた」
「すげーな、じゃあわかんねーことはなんでも姉貴に聞けばいいな」
薬研はそれに気づかないふりをして、わざと明るい声で言う。その心遣いに審神者は感謝した。やがて入口が見えてくると、たまらず薬研は走り出した。後を追う審神者は鞄の中から何かを取り出すと、一枚を薬研に渡す。使い方を簡単に説明すると先にゲートをくぐった。薬研も審神者に倣ってゲートをくぐると、地図とインフォメーションをもらう。目の前には、動画で見たキャラクター達がいて、皆笑顔で写真を撮ったり利用客と話していたりした。
ここが、夢の国。
薬研は大きく深呼吸すると、審神者にとびきりの笑顔を見せて言った。
「行こうぜ、姉貴。夢の国を探検だ」