第7章 鶴丸国永
鶴丸が何やら企んでいる。
薬研の報告を受けて審神者は注意深く観察することにした。全員に携帯を持たせてから、一番に使い方を覚えたのは鶴丸と陸奥守だった。以来、二人が先生役になり仲間達に使い方を教えている。だが最近では先生役をもっぱら陸奥守に任せ、鶴丸は携帯片手にコソコソと隠れるように行動するようになった。ネットの危険性についてはことあるごとに口を酸っぱくして注意しているが、刀剣男士達がどこまでそれを理解しているのかはわからない。そこで審神者は釘を刺しておくことにした。
「鶴丸、あんまりイタズラがすぎると現世行き無しにするからね」
「な⁈それはあまりにも信用が無さすぎないか、主?」
「それは色々出来て面白いけど玩具じゃないからほどほどにしておきなさいってことよ」
「危険なことには使わないさ。それは安心してくれていい」
「ネットってのはどこに危険が潜んでるのかわからないからくれぐれも注意しなさいね」
「わかってるさ、君に迷惑はかけない。約束しよう」
そう言ってさりげなく立ち去る鶴丸の背中を見遣りながら、審神者は一つ溜息をついた。
現世へ行く日の朝、審神者は珍しく見送りの中に一期がいないことに気がついた。常ならば必ず見送りに来て、本丸を出るまで気をつけろ、はやく帰れと言い続けているのだが、今日は見当たらない。代わりに薬研が見送りに立つ。
「鶴丸の旦那、大将を頼んだぜ。あそこは驚きで満ち溢れているからな、余計な驚きはくれぐれも自重してくれや」
「随分と信用が無いな薬研」
苦笑する鶴丸を他所に審神者は辺りを見回した。遅れて来るのかと思いきや、やはりいない。今日は見送りには来ないのだろうか。
「どうした大将、何か忘れ物か?」
キョロキョロと辺りを見回す審神者を不審に思ったのか、薬研が声をかけた。
「……ううん、そうじゃなくて今日は珍しく一期が見送りに来てないなと思ってね」
「ああ、いち兄なら随分と落ち込んでたぞ。何かあったのか?」
「おや、そんなに落ち込んでいたとはな、こりゃ驚きだ」
「何したの鶴丸?」
「何もしないさ。ただせっかくの初でえとだから野暮な真似はしないでくれと言っただけだ。では参りましょうかお嬢さん、お手をどうぞ」
恭しく手を差し出す鶴丸に苦笑しながら、審神者はゲートをくぐった。