第6章 小夜左文字
キャラメル味のポップコーンを小夜の口と自分の口に交互に放り込みながら、審神者は器用にインフォメーションを眺めている。茂みの向こうからなにやら楽しげな音楽が流れてきて、小夜は気になっているようだ。時折、曲の合間に子供達の歓声が混じる。待機列からは見えないが、期待を煽るには充分だった。
「姉様、この向こうで何をしているの?」
「んー?みんなで歌を歌ったり簡単な踊りを踊ったりして参加するショーだよ」
「歌……?流行りの歌を僕は知らない」
「教えてくれるから大丈夫よ」
やがて聞こえてきた拍手に、終わったみたいねと審神者は呟いた。はけていく人混みと入れ替わるように小さな舞台が設えてある場所へと出る。誘導する係員が大人は後方へ、小さな子供は前方へと案内している。
「僕も前の方がいいかな?」
小夜の姿を見留めた係員が、しゃがんで目線を合わせながら問うた。
「姉様も一緒?」
「私は大人だから後ろだよ」
「……なら僕は姉様と一緒がいい」
コートの裾をつかんで隠れるように後ろへ回ってしまった小夜に苦笑しながら、審神者は係員へ向けて言った。
「すみません、この子人見知りで。立ち見で大丈夫です」
「ではこの辺りにどうぞ。僕も楽しんでいってね」
立ち見の最前列へと案内して、係員は別の子供を前方へと案内するために離れていった。
「前の方じゃなくて良かったの、小夜?」
コートの裾を掴まれたまま審神者が問うと、小夜はコクリと頷いた。
「姉様のそばを離れないって約束したから」
もし人間にも誉桜が咲くならば、審神者はこの辺り一帯を花弁の海に変えていただろう。後日審神者は「あの時は死んでもいいかと思った」と、周囲に漏らしていた。